
日本のネイチャーフォトのパイオニア田淵行男(1905−1989)が日本の写真界に及ぼした影響は大きく、現在活躍中の写真家たちが絶賛し、その目標として挙げる作品集が「高山蝶」(1959年、朋文堂)です。
1951年、「田淵行男山岳写真傑作集」を掲げ、独自の斬新な視点から一躍、山岳写真家としてデビューした田淵行男ですが、山岳写真とともにチョウの研究は切っても切り離せない彼のライフワークでした。チョウの研究をするために深山に入り込み傑作山岳写真を生み出してきたのです。昆虫写真と山岳写真。一見すると異なる写真分野と思いがちですが、「山」そのものを表現するために、里山や高山に棲息するチョウたちやその環境を研究することは相反することではないのです。この「高山蝶」により、閉塞感のあった「山岳写真」の分野に新風を興し、日本の自然写真分野を切り開いたのです。
今回の展覧会では、「高山蝶」の世界を辿り、隆盛を極めるネイチャーフォトの原点を見つめます。氷河期の終焉とともに北アルプスに閉じ込められた高山蝶たちは、厳しい高山の環境の下でなければ棲息できず、そこを最上のねぐらとしてきました。「この地史の落とし子たちに、安らかな旅を続けさせねばならぬ」田淵行男は「高山蝶」の序文にこう記しています。氷河期の落とし子たる高山蝶たちの未来を案ずる田淵でしたが、その不安は現実のものとなりつつあります。地球の温暖化の影響は、北アルプスの高地にも深刻な影響を及ぼしています。
美しい高山蝶の生態写真や山岳写真から、田淵行男が遺した「自然からのメッセージ」を感じていただければ幸いです。
会 期 平成19年7月3日(火)~11月11日(日)